当研究室の杉村らは、脊髄や三叉神経から脳に送られる侵害受容情報がどのように脳の情動に関与する神経回路を活性化するか、明らかにしました。
扁桃体は、脊椎動物で種を超えて保存されている神経核で、このような、有害な状況に関して生じる「情動」に深く関与していることが知られています。
当研究室の杉村らは、脊髄後角の侵害受容ニューロンからの情報を直接受ける「腕傍核」から「扁桃体中心核」に投射する線維を、最新の光遺伝学の手法を用いて脳スライスの中で選択的に活性化することに成功しました。
杉村らは、ラット腕傍核にChR2発現AAVウィルスベクターを導入し、扁桃体中心核を含む脳スライスを作製し、扁桃体中心核ニューロンから興奮性、および、抑制性シナプス後電流を記録して、以下の新事実を明らかにしました。
(1)腕傍核からの入力が、扁桃体中心核ニューロンと単シナプス性の興奮性シナプスを形成する事実
(2)腕傍核からの入力が、扁桃体中心核の抑制性ニューロン群を活性化し、多シナプス性の「フィードフォワード抑制」を形成する事実
(3)扁桃体中心核の出力ニューロンが集合している内側亜核では、この「フィードフォワード抑制」の振幅が大きく、長く反復的に持続する事実(水平断スライスでの同経路の光刺激による世界初の証明)
そして
(4)この単シナプス興奮性応答の振幅が、炎症性疼痛モデルにおいて、ニューロン発火パターン特異的に増強する事実
これらの新知見は、脊髄後角あるいは三叉神経脊髄路核からわずか2ニューロンで直接的に扁桃体中心核に入力する侵害受容情報が、扁桃体中心核ニューロンの興奮活動に多様な影響を及ぼし、それが痛みの慢性化に伴って大きく変化する事実を明確かつ正確に示したものです。この知見によって、痛みによって生じる苦痛や不安の理解、あるいは、痛みが慢性化するときに脳の中でどのような変化が起きているのかの理解を進めるとともに、それらに基づいた慢性の痛みの苦しみを緩和する方法の開発につながりうる重要な研究成果です。